有給が取りにくい職場でも、年次有給休暇は条件を満たした労働者に法律で認められた権利で、取得に会社の承認は必要なく、理由を伝える義務もないとされています。そのうえで、早めの相談と引き継ぎの準備をしておくと、気まずさを減らして休みやすくなります。
有給の申請書を出そうとすると、上司が小さくため息をつく。周りを見渡しても、誰も休みを取っていない。「この忙しい時期に?」と言われるのが怖くて、気づけば今年もほとんど使わないまま年度末が近づいている。
有給が取りにくいと感じるのは、あなたの気が弱いからではありません。職場の雰囲気や人手不足、ルールを知らないことによる不安が重なっていることが多いのです。この記事では、年次有給休暇の基本的なルール、有給を取りやすくする段取り、上司への伝え方の例文、理由を聞かれたり断られたりしたときの対応、社外の相談先までを順番に整理します。
この記事でわかること
- 有給が取りにくいと感じる主な理由
- 知っておきたい年次有給休暇のルール(理由・年5日・時季変更権など)
- 有給を取りやすくする段取りと、伝え方の例文
- 理由をしつこく聞かれたり、断られたりしたときの対応と相談先
有給が取りにくいと感じる主な理由
有給が取りにくい理由の多くは、「職場の雰囲気」「代わりがいない不安」「上司の反応への怖さ」の3つに集約されます。自分がどれに当てはまるかによって、取るべき対策が変わります。
誰も取っていない雰囲気がある
周りが休まない職場では、自分だけ休むことに強い引け目を感じがちです。ただ、周りの人も同じように遠慮しているだけかもしれません。誰かが取り始めると、ほかの人も取りやすくなることがあります。
人手不足で、代わりがいない
自分が休むと仕事が止まる、ほかの人に負担がかかる。そう考えると申請をためらってしまいます。この場合は、休むこと自体より「休んでも回る準備」が鍵になります。仕事を一人で抱え込みがちな方は、仕事を抱え込んで手放せないときの任せる範囲の決め方も参考にしてください。
上司の反応が怖い
嫌味を言われた、不機嫌になられた経験があると、申請そのものが怖くなります。上司と話すこと自体に緊張する方は、上司が怖くて話せないときの報告・相談のコツもあわせて読んでみてください。
理由を聞かれるのが面倒
「何の用事?」と聞かれるのが嫌で、申請をためらう人もいます。次の章で紹介するように、有給の理由は法律上伝える必要がないとされています。それを知っているだけでも、気持ちは少し楽になります。
知っておきたい年次有給休暇のルール
年次有給休暇は、6か月以上継続して働き、全労働日の8割以上出勤した労働者に与えられる権利で、正社員だけでなくパートやアルバイトも対象です。基本的なルールを表にまとめました。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 付与の条件 | 雇い入れから6か月継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤していること |
| 付与日数 | フルタイムの場合、最初は10日。勤続年数に応じて増え、6年6か月以上で20日 |
| パート・アルバイト | 週の所定労働日数などに応じて、比例した日数が付与される |
| 年5日の取得義務 | 2019年4月から、年10日以上付与される労働者には、会社が年5日を確実に取得させる義務がある |
| 会社の承認 | 労働者が日を指定して取得するもので、会社の承認は必要ないとされる |
| 取得の理由 | 休暇をどう使うかは労働者の自由とされ、理由を伝える法律上の義務はない |
| 時季変更権 | 事業の正常な運営を妨げる場合に限り、会社は別の日への変更を求められる |
| 不利益な取り扱い | 有給を取ったことによる賃金の減額などの不利益な取り扱いは、しないよう定められている |
| 時効 | 付与日から2年で時効により消滅する(未使用分は翌年度に繰り越せる) |
| 半日・時間単位 | 半日単位は就業規則などの定めがあれば可能。時間単位は労使協定により年5日の範囲で可能 |
「時季変更権」は拒否ではない
会社には、指定された日に休まれると事業の正常な運営を妨げる場合に限り、別の日に変更してもらう「時季変更権」があります。たとえば特に忙しい時期や、同じ日に多くの人の休みが重なった場合などです。ただしこれは「別の日に取ってもらう」ための権利で、有給そのものを取らせないことはできません。
年5日の取得義務とは
年10日以上の有給が付与される労働者について、会社は付与した日から1年以内に5日を取得させなければなりません。自分で5日取得していれば、会社が日を指定する必要はなくなります。有給が取りにくい職場でも、少なくとも年5日は取れるように会社が動く必要がある、ということです。

有給を取りやすくする段取り
有給を気まずさなく取るコツは、「早めに伝える」「候補日を複数用意する」「引き継ぎを形にする」の3つです。権利だからと言って突然申請するより、準備をしておくほうが、自分も職場も楽になります。
有給を取りやすくする6つの手順
- 休みたい日を早めに決め、繁忙期を避けた候補日を2つほど用意する
- 上司に口頭やチャットで先に相談し、そのあと会社の手続きどおりに申請する
- 休む日までに終わらせる仕事と、残る仕事を書き出す
- 残る仕事について、引き継ぎメモを作って担当者に共有する
- 前日に、休みであることをチームに改めて伝え、メールの自動返信を設定する
- 休み明けに、不在中の動きを確認してお礼を伝える
休む日は「年単位」で先に決めておく
誕生日、連休の前後、家族の行事など、年の初めに休みたい日を先に決めておくと、申請のたびに悩まずに済みます。早い段階で伝えておけば、職場も調整しやすくなります。
引き継ぎメモは3行でいい
「進行中の仕事」「急ぎの連絡が来たときの対応」「戻ったら対応すること」の3つを書いておけば十分です。休んでも業務が回る形を見せられると、次の休みも取りやすくなります。引き継ぎの書き方は引き継ぎ資料の作り方|後任が迷わない書き方も参考になります。
有給を伝えるときの例文
有給を伝えるときは、「日付」「業務への配慮」「申請の手続き」の順に短く話すと、理由を言わなくても自然に伝わります。場面ごとの例文を紹介します。
上司に口頭で相談するとき
そのまま使える例文
「〇月〇日に有給休暇をいただきたいと考えています。担当の〇〇は前日までに終わらせて、残りは〇〇さんに引き継いでおきます。このあと申請を出しますね」
メールやチャットで伝えるとき
そのまま使える例文
「お疲れさまです。〇月〇日(〇)に有給休暇を取得させていただきたく、ご連絡しました。当日の対応が必要な件は〇〇さんに引き継ぎ、引き継ぎメモを共有フォルダに置いておきます。申請は勤怠システムから提出いたします」
理由を聞かれたとき
そのまま使える例文
「私用のためです」
「家の用事がありまして」
「少し休んで体調を整えたいと思っています」
連休にしたいとき・繁忙期に近いとき
そのまま使える例文
「〇月の連休に合わせて、〇日と〇日に有給をいただけないかご相談です。月末の締め作業には影響が出ないよう、前倒しで進めておきます。もし難しければ、翌週の〇日でも調整できます」
候補日を二つ示しておくと、上司も「その日はダメ」ではなく「こちらなら大丈夫」と答えやすくなります。

理由をしつこく聞かれる・断られたときの対応
理由をしつこく聞かれたり、取得を断られたりしたときは、感情的に反論するより、ルールを確認しながら代わりの日を相談し、やりとりを記録しておくのが現実的です。一人で抱え込まず、社内外の相談先も使いましょう。
理由をしつこく聞かれたら
「私用のためです」と同じ答えを穏やかに繰り返してかまいません。それでも詮索が続く場合は、「プライベートなことなので、差し支えなければ控えさせてください」と伝えましょう。仕事に関係のない個人的な事情まで説明する必要はありません。
「忙しいからダメ」と言われたら
時季変更権は、別の日に休ませることが前提です。「では、いつなら取得できますか」と代わりの日を一緒に決めてもらうよう相談してみてください。いつまでも日が決まらない、休み自体を認めない状態が続くなら、社外の相談先に相談するタイミングです。
評価を下げると言われたら
有給を取ったことを理由に、賃金を減らしたり評価を下げたりするなどの不利益な取り扱いは、しないよう定められています。そうした発言があった場合は、日時・相手・言われた内容をメモに残しておきましょう。記録は、あとで相談するときの大切な材料になります。
ケース別|こんなときの有給の考え方
当日の体調不良、退職前の消化、パートや派遣、産休・育休明けなど、状況によって確認しておきたいポイントが変わります。よくあるケースを整理します。
当日の朝に体調を崩したとき
当日の連絡による休みを有給として扱うかどうかは、会社の就業規則や運用によって異なります。まずは始業前に上司へ連絡し、「有給で処理していただけますか」と確認しましょう。日頃から就業規則の休暇のルールを一度見ておくと、いざというときに慌てずに済みます。
そのまま使える例文
「おはようございます。発熱があるため、本日はお休みをいただきたいです。可能であれば有給休暇で処理していただけますでしょうか。急ぎの〇〇は〇〇さんにお願いしてあります」
退職前に残りの有給を使いたいとき
退職すると有給休暇の権利はなくなるため、退職日までの日に指定された有給について、会社が別の日に変更する余地はないと解説されています。とはいえ、引き継ぎの期間も必要です。退職日と最終出社日、有給を使う日をまとめて早めに相談しましょう。退職の切り出し方は退職の伝え方・切り出し方で紹介しています。
パート・アルバイト・派遣で働いているとき
パートやアルバイトでも、条件を満たせば勤務日数に応じた有給が付与されます。派遣社員の場合、有給を与えるのは派遣先ではなく雇用主である派遣元(派遣会社)なので、申請や相談は派遣会社の担当者に行います。
産休・育休から復帰したとき
有給の付与条件である「8割以上の出勤」を計算するとき、産前産後休業や育児休業の期間は出勤したものとして扱われます。休業していたから有給がもらえない、ということにはならないので、復帰後の付与日数を確認しておきましょう。
有給が取れないときの相談先
社内で解決が難しいときは、都道府県労働局や労働基準監督署内などにある「総合労働相談コーナー」で、無料・予約不要で相談できます。まずは話を聞いてもらうだけでも、次に何をすればいいかが整理できます。
- 社内の窓口:人事部、労働組合、社内の相談窓口など
- 総合労働相談コーナー:各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内などに設置。面談や電話で相談できる
- 労働条件相談ほっとライン:厚生労働省の委託事業による電話相談(0120-811-610)。平日の夜や土日も受け付けている(開設時間は公式サイトで確認を)
職場の中に相談できる相手がいないと感じる方は、職場に味方がいないと感じたら|社外に相談先を持つも読んでみてください。残業を断れないなど、休み以外の働き方の悩みが重なっている場合は、残業を断れないときに引き受ける前に決めておくことも役立ちます。
MIKATA編集部の視点
MIKATA編集部は、有給を取ることを「職場への迷惑」ではなく、働き続けるための大切なメンテナンスだと考えています。ルールを知っておくことは、上司と戦うためではなく、自分の休みを後ろめたく感じないための土台です。そのうえで、早めの相談や引き継ぎといった小さな準備を重ねていけば、休みを取る人が増え、職場全体も少しずつ休みやすくなっていくはずです。まずは今年、一日だけでも自分のための休みを先にカレンダーに書き込んでみてください。
有給が取りにくいときのよくある質問
Q1. 有給を取るときに理由は必要ですか?
A. 年次有給休暇をどう使うかは労働者の自由とされており、取得の理由を伝えることは法律上求められていません。会社の申請書に理由欄がある場合も、「私用のため」と書けば足りるのが一般的です。
Q2. 有給を会社に断られるのは違法ですか?
A. 会社は原則として、労働者が指定した日に有給休暇を与えなければなりません。例外として、その日に休まれると事業の正常な運営を妨げる場合に限り、別の日に変更してもらう「時季変更権」がありますが、有給そのものを取らせないことは認められていません。困ったときは総合労働相談コーナーなどに相談しましょう。
Q3. 有給を取ると評価が下がることはありますか?
A. 労働基準法では、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額などの不利益な取り扱いをしないよう定められています。有給を取ったことを理由に評価を下げると言われた場合は、日時や発言を記録し、社内の人事窓口や総合労働相談コーナーに相談してください。
Q4. 繁忙期に有給を取りたいときはどうすればいい?
A. 繁忙期は会社が時季変更権を使う可能性もあるため、できるだけ早めに上司へ相談し、候補日を複数用意しておくと調整しやすくなります。引き継ぎメモを作って、休んでも業務が回る準備をしておくことも大切です。
Q5. 有給はいつまでに使わないと消えますか?
A. 年次有給休暇の権利は、付与された日から2年で時効により消滅すると考えられています。使い切れなかった分は翌年度に繰り越せますが、2年を過ぎると使えなくなるため、残日数は勤怠システムや給与明細などで定期的に確認しておきましょう。
参考にした情報
執筆・編集:MIKATA編集部
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の労働問題について法的な判断を行うものではありません。具体的な状況については、総合労働相談コーナーや専門家にご相談ください。制度の内容は変更されることがあるため、最新の情報は厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
