引き継ぎ資料は業務の一覧ではなく、後任がその場で判断できる材料を残すものです。項目と順番を整理します。
退職までに何を残せばよいのか分からない。自分では当たり前にやっていることほど、書き出すと抜けます。この記事では、引き継ぎ資料に入れる項目と、後任が迷わない書き方、進めるときの時期の決め方、そして自分を守るための記録の残し方を整理します。
引き継ぎ資料が役に立たなくなる理由

書いたのに使われない資料には、共通の特徴があります。
業務の一覧で終わっている
何をやるかは書かれていても、どう判断するかが書かれていないと、後任は結局聞きに来ることになります。手順書と引き継ぎ資料は別のものです。
自分にとって当たり前のことが抜ける
毎日やっていることほど、意識せずにやっているため書き漏れます。確認する相手、見る場所、その順番。こうした部分が抜けると、後任は一から探すことになります。
退職直前にまとめて作っている
最後の週にまとめて書くと、思い出せる範囲でしか書けません。実際に業務をしながら書き足すほうが、抜けが少なくなります。
後任が決まるまで待っている
相手に合わせて書こうとして、後任が決まるまで手をつけない。しかし後任が決まる時期はこちらでは決められません。誰が読んでも分かる形で先に書いてください。
MIKATA編集部に届く退職の相談を読むと、引き継ぎについての困りごとは「何を書けばよいか分からない」ではなく「後任が決まらないまま日が過ぎる」という形で書かれています。相手が決まらないから書けない、と考えているうちに時間がなくなる。後任が未定でも書けることのほうが多くあります。
入れる項目を四つに分ける
引き継ぎ資料に入れる情報は、性質ごとに分けると抜けません。
| 項目 | 書く内容 | 抜けると起きること |
|---|---|---|
| 業務の一覧 | 何を、どの頻度で | 存在に気づかれない |
| 判断の基準 | 迷ったときに何で決めるか | 毎回聞かれる |
| 関係者 | 誰に確認するか、誰に伝えるか | 話が止まる |
| 過去の経緯 | 起きた問題と対応 | 同じ失敗が起きる |
判断の基準がいちばん抜けやすい
四つのうち、書かれていないことが多いのが判断の基準です。「この場合はこちらを優先する」「この金額を超えたら上司に確認する」。こうした基準こそ、本人の頭の中にしかありません。
業務の一覧は頻度と期限をつける
業務名だけ並べても、いつやるものかが分かりません。毎日、毎週月曜、月末まで。頻度と期限を書くだけで、後任は自分の予定に組み込めます。
関係者は役割まで書く
名前だけでは、誰に何を聞けばよいか分かりません。「金額の承認はこの人」「内容の確認はこの人」のように役割まで書いてください。
過去の経緯は再発を防ぐ
以前に起きた問題と、そのときの対応。これを残しておくと、後任が同じところで詰まりません。うまくいかなかった方法も、書いておく価値があります。試して駄目だった方法が分かれば、同じ検討をやり直さずに済みます。
後任が迷わない書き方

読む側は、全体を読んでから作業するのではなく困ったときに開きます。その前提で書いてください。
- 冒頭に「困ったときにまず見る場所」を置く
- 業務ごとに、頻度と期限を先に書く
- 判断が必要な場面と、その基準を書く
- 確認する相手の名前と、連絡の手段を書く
- 過去に起きた問題と対応を書く
困ったときの入口を先頭に置く
最初のページに「分からないことがあったらここを見る」という案内を置くと、後任が探す時間が減ります。全部を読ませる前提の資料は、実際には読まれません。
見る場所を書く
どのファイルを、どこから開くのか。自分は覚えているので省きますが、後任にとってはここが最初の壁になります。場所の名前と、たどり方を書いてください。
固有名詞を省かない
「担当者に確認」ではなく、誰に、どの手段で確認するかまで書いてください。自分が知っていることほど省略しがちな部分です。
編集部で担当の入れ替えをした際、業務の一覧をそのまま渡した回と、「困ったときにどうするか」を先頭に置いた回を比べました。前者は引き継いだあとの質問が多く、後者は明らかに少なくなりました。手順よりも、判断に迷う場面の答えが残っているかで差が出ています。
書いてはいけないこと

残す情報の中には、書いてはいけないものもあります。
▼ 資料に入れない項目
- □ 利用者名やパスワードなどのログイン情報
- □ 個人の連絡先を本人の同意なく載せること
- □ 特定の人への評価や不満
- □ 確定していない予定を確定として書くこと
- □ 自分の推測を事実として書くこと
ログイン情報は別の方法で渡す
資料にそのまま書くと、その資料が回覧されるたびに情報が広がります。引き継ぎ資料には「引き継ぎ時に別途共有」とだけ書き、実際の受け渡しは所属先の決まりに従ってください。
確定していない予定を確定として書かない
「来月から新しい仕組みに変わる予定」を確定したことのように書くと、後任がその前提で動いてしまいます。未確定なものは未確定と明記してください。
人への評価は書かない
「この人は反応が遅い」といった記述は、資料が誰の目に触れるか分からない以上、書くべきではありません。必要なら「確認に数日かかることがある」のように事実として書いてください。
進める時期の決め方

退職の日から逆算して、段階的に進めてください。
進める順番
- 退職が決まった時点で、業務の一覧だけ書き出す
- 以降、業務をやりながら判断の基準を書き足す
- 退職の二週間前までに、資料を一度完成させる
- 残りの期間で、後任と一緒に見て抜けを埋める
一覧は決まった時点で書く
後任が決まっていなくても、自分が何をやっているかの一覧は書けます。これを先に作っておくと、そのあとの書き足しが楽になります。一覧があるだけで、上司も引き継ぎの範囲を判断できます。
やりながら書き足す
業務をやっている最中に気づいたことをそのつど書き足す形にしてください。机に向かって思い出そうとすると、当たり前にやっている部分が抜けます。実際に手を動かしている瞬間が、いちばん抜けに気づけます。
二週間前に一度完成させる
最終日に間に合わせる形にすると、抜けを確認する時間がありません。二週間前に一度完成させ、残りの期間で実際に使ってもらいながら埋めてください。
自分を守るための記録

引き継ぎは、あとから責任を問われる場面が生まれることがあります。
渡した内容と日付を残す
いつ、誰に、何を渡したか。この記録を自分の手元にも残しておいてください。退職後に「聞いていない」と言われる場面で、唯一の材料になります。資料を渡したときのやり取りを残しておけば足ります。
引き継げなかったものも書く
時間が足りず引き継げなかった業務がある場合、その事実も資料に書いてください。隠すより、残っている作業として明示するほうが双方にとって安全です。残作業として明示されていれば、後任も上司も対応を決められます。
退職後の連絡について決めておく
退職後に質問の連絡が来ることがあります。対応するかどうか、どの期間まで受けるかを退職前に決めて伝えておいてください。決めていないと、断りにくいまま続くことがあります。一か月までは受ける、といった形で期限を決めておくのが現実的です。
働き方の工夫を、毎週お届けしています
よくある質問(FAQ)
Q1. 後任が決まっていないと引き継ぎ資料は書けませんか。
A. 書けます。自分が何をやっているかの一覧、判断の基準、確認する相手、過去の経緯は、誰が読んでも分かる形で先に書けます。後任が決まる時期はこちらでは決められません。
Q2. 何から書き始めればよいですか。
A. 冒頭に「困ったときにまず見る場所」を置いてください。読む側は全体を読んでから作業するのではなく、困ったときに開きます。全部を読ませる前提の資料は実際には読まれません。
Q3. ログイン情報は資料に書いてよいですか。
A. 書かないでください。資料が回覧されるたびに情報が広がります。「引き継ぎ時に別途共有」とだけ書き、実際の受け渡しは所属先の決まりに従ってください。
Q4. いつまでに完成させればよいですか。
A. 退職の二週間前を目安に一度完成させてください。最終日に間に合わせる形にすると抜けを確認する時間がありません。残りの期間で、実際に使ってもらいながら埋めるのが確実です。
監修:MIKATA編集部
※本記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を行うものではありません。心身の不調が続く場合は、医療機関や専門家にご相談ください。
