アサーションとは、自分の気持ちや考えを大切にしながら、相手の気持ちや立場も尊重して、率直に伝える自己表現のことです。我慢して黙るのでも、強く言い負かすのでもない「お互いを大切にする伝え方」で、DESC法という4ステップの型を使うと、職場・恋人・友達のどの場面でも練習しやすくなります。
本当は引き受けたくない仕事を、また笑顔で受けてしまった。恋人の言葉に傷ついたのに「大丈夫」と流してしまった。あるいは逆に、我慢を重ねた末に強い口調で言い返してしまい、あとで自己嫌悪に陥った。言いたいことを言うのは、なぜこんなに難しいのでしょうか。
そんなときに知っておきたいのが、アサーションという考え方です。この記事では、アサーションの意味と3つの自己表現タイプの違い、DESC法を使った伝え方の手順、場面別の例文、身につけるための練習方法までを順番に解説します。
この記事でわかること
- アサーションの意味と、考え方の背景
- 攻撃的・非主張的・アサーティブの3タイプの違い
- DESC法の4ステップと、職場・恋人・友達別の例文
- 断る・頼む場面での使い方と、日常でできる練習
アサーションとは?意味を簡単に解説
アサーション(assertion)とは、自分も相手も大切にしながら、自分の気持ちや考え、希望を、その場にふさわしい方法で率直に伝えるコミュニケーションのことです。そのような伝え方ができる状態や態度を「アサーティブ」と呼びます。
英語の assertion には「主張」という意味がありますが、心理学やコミュニケーションの分野でいうアサーションは、ただ自分の意見を押し通すことではありません。相手にも同じように気持ちや考えを持つ権利があることを認めたうえで、自分の思いも伝える、という双方向の考え方です。
アサーションの背景
アサーションは、アメリカで心理療法の一つとして発展した「アサーション・トレーニング(自己表現の練習)」がもとになっています。日本では臨床心理士の平木典子氏らが紹介したことで広く知られるようになり、現在は職場の研修や看護・福祉の教育、カウンセリングなど、さまざまな場面で取り入れられています。
ITや監査の「アサーション」とは別の言葉
「アサーション」という言葉は、プログラミングでは「プログラムが正しく動いているかを確かめる仕組み」、会計監査では「財務諸表に含まれる経営者の主張」を指すこともあります。この記事で扱うのは、心理学・コミュニケーションの分野でのアサーションです。
3つの自己表現タイプ|攻撃的・非主張的・アサーティブの違い
アサーションでは、人の自己表現を「攻撃的(アグレッシブ)」「非主張的(ノン・アサーティブ)」「アサーティブ」の3つのタイプに分けて考えます。同じ場面でも、どのタイプで伝えるかによって、相手との関係や自分の気持ちは大きく変わります。
たとえば、退勤間際に同僚から「これ、明日までにお願いできる?」と急ぎの仕事を頼まれた場面で比べてみましょう。
| タイプ | 特徴 | この場面での言い方の例 | あとに残りやすいもの |
|---|---|---|---|
| 攻撃的(アグレッシブ) | 自分の意見を通すことを優先し、相手の気持ちを軽く扱う | 「なんで今さら言うの?無理に決まってるでしょ」 | 相手との関係のぎくしゃく、言い過ぎた後悔 |
| 非主張的(ノン・アサーティブ) | 自分の気持ちを抑え、相手に合わせることを優先する | 「あ、はい……大丈夫です」(本当は予定がある) | 我慢による疲れ、相手へのモヤモヤ |
| アサーティブ | 自分の事情も相手の事情も大切にして、率直に伝える | 「今日は予定があって残れないんです。明日の午前中なら対応できますが、それで間に合いますか?」 | 納得感、相手との話し合いの余地 |
どのタイプがいい・悪いというより、誰でも相手や場面によってタイプが変わります。職場では非主張的なのに、家族には攻撃的になってしまう、ということも珍しくありません。
▼ セルフチェック|あなたはどのタイプに近い?
- □ 頼まれると、内心では嫌でも引き受けてしまう(非主張的)
- □ 自分の意見を言う前に「すみません」をつけることが多い(非主張的)
- □ 我慢が限界に達すると、急に強い言い方になる(非主張的から攻撃的へ)
- □ 相手の意見を聞く前に、つい否定から入ってしまう(攻撃的)
- □ 自分の希望を伝えたうえで、相手の考えも聞くことができる(アサーティブ)
非主張的な人が我慢を重ねた末に攻撃的になってしまうのは、よくあるパターンです。伝え方を変える前に、我慢と配慮の違いを整理したい人は相手のためを思うと本音が言えないとき|配慮と我慢の分け方も参考になります。

アサーションが大切な理由|我慢も攻撃も関係をすり減らす
アサーションが大切なのは、我慢し続ける伝え方も、相手を押し切る伝え方も、長い目で見ると自分と相手の関係をすり減らしてしまうからです。アサーティブな伝え方は、その中間にある「話し合いの余地を残す」方法です。
非主張的な伝え方は、その場の衝突は避けられますが、自分の中に不満がたまりやすくなります。相手は「この人は大丈夫なんだ」と受け取るため、同じことが繰り返されがちです。一方、攻撃的な伝え方は自分の要求は通っても、相手が萎縮したり反発したりして、本音を話してもらえない関係になりやすくなります。
アサーティブに伝えると、必ずしも自分の希望がそのまま通るとは限りません。それでも「自分の気持ちを伝えられた」という納得感が残り、相手との関係も対等に保ちやすくなります。他人の顔色より自分の気持ちを基準にする考え方は、自分軸とは?他人軸との違いと自分軸で生きるための練習とも深くつながっています。
DESC法とは?アサーティブに伝える4つのステップ
DESC法(デスク法)とは、伝えたいことを「描写する・表現する・提案する・選択する」の4ステップで組み立てる、アサーションの代表的な方法です。アメリカのバウアー夫妻が考案した方法として知られており、伝える前にこの順番で整理しておくと、感情的にならずに話を進めやすくなります。
| ステップ | 意味 | ポイント |
|---|---|---|
| D:Describe(描写する) | 起きている状況や相手の行動を、客観的な事実として伝える | 「いつも」「絶対」など決めつけの言葉を使わない |
| E:Express・Explain(表現する・説明する) | その状況について、自分がどう感じているか、どう考えているかを伝える | 「私は」を主語にして、相手を責める言い方を避ける |
| S:Specify(提案する) | 相手にしてほしいこと、解決策を具体的に提案する | 大きな変化より、小さく実行しやすい提案にする |
| C:Choose(選択する) | 相手の反応がYesの場合とNoの場合、それぞれ自分がどうするかを考えておく | Noのときの代わりの案を用意しておくと落ち着いて話せる |
DESC法で伝える前の準備
- 伝えたい場面と相手を一つ決める
- D:起きた事実を、評価を入れずに一文で書く
- E:そのとき自分が感じたこと・考えたことを「私は」から書く
- S:相手にしてほしいことを、具体的に一つだけ書く
- C:相手がYesならどうするか、Noならどうするかを書いておく
- 声に出して読み、きつく聞こえる言葉があれば言い換える
DESC法の例文|職場・恋人・友達の場面別
DESC法は、場面ごとに4つのステップを当てはめるだけで、責めずに率直に伝える文章が作れます。ここでは、よくある3つの場面で具体例を紹介します。
職場:会議で話を遮られる
そのまま使える例文
D「昨日の会議で、私が説明している途中で話が次の議題に移りましたよね」
E「最後まで説明できなかったので、伝えきれなかったことが気になっています」
S「次からは、私の説明が終わってからご意見をいただけると助かります」
C(Yesなら)「ありがとうございます」/(Noなら)「では、補足を資料にまとめて共有させてください」
恋人:約束の時間に連絡なく遅れる
そのまま使える例文
D「この前も今日も、待ち合わせに30分くらい遅れて、連絡がなかったよね」
E「何かあったのかなと心配になったし、待っている時間が少し寂しかった」
S「遅れそうなときは、ひと言だけでもLINEしてもらえるとうれしい」
C(Yesなら)「ありがとう、それだけで安心できる」/(Noなら)「じゃあ、待ち合わせを駅じゃなくてカフェにしよう。待つ時間も楽しめるから」
友達:会うたびに愚痴ばかり聞くことになる
そのまま使える例文
D「最近会うと、仕事の話を聞くことが多いよね」
E「話してくれるのはうれしいんだけど、私も少し疲れが溜まっていて、聞き役に回るのがしんどい日があるんだ」
S「今日は、最近見た映画の話とか、楽しい話もしたいな」
C(Yesなら)「ありがとう、聞いてほしいときはまた聞くね」/(Noなら)「今日はつらそうだから聞くよ。でも次は楽しい話もしようね」
どの例文も、相手を責める言葉ではなく、事実と自分の気持ち、具体的な提案でできています。Cのステップで「Noだったときの案」を持っておくと、相手が受け入れてくれなかったときにも、話し合いを続けやすくなります。
断る・頼む場面でのアサーションの使い方
アサーションが特に役立つのは、「断る」と「頼む」という、相手への遠慮が出やすい2つの場面です。どちらも、理由を長く説明しすぎず、自分の気持ちと具体的な代案を短く伝えるのがポイントです。
断るとき:感謝+断り+代案
そのまま使える例文
「誘ってくれてありがとう。今週は予定が詰まっていて行けないんだ。来月なら行けそうだから、また声をかけてもらえるとうれしい」
「声をかけていただいてありがとうございます。今の案件で手いっぱいなので、今回はお受けできません。来週以降でよければ、改めて相談させてください」
断ることに罪悪感がある人は、断れない性格を直したいときは?即答をやめるだけで変わるや、相手別の例文をまとめた誘いの上手な断り方|友達・職場・異性別の例文とLINE文面もあわせて読んでみてください。
頼むとき:状況+お願い+相手の都合の確認
そのまま使える例文
「今週、資料の締め切りが重なっていて、一人では間に合いそうにありません。この集計だけお願いできると助かるのですが、今の状況で難しくないですか?」
最後に相手の都合を確認するひと言を入れると、相手にも断る余地が残り、頼まれた側も気持ちよく引き受けやすくなります。頼むこと自体に抵抗がある人は人に頼みごとをするのが申し訳ないとき|頼む練習の順番も参考になります。

アサーションを身につける練習方法
アサーションは知識として知るだけでなく、小さな場面で何度も試すことで身についていくスキルです。いきなり難しい相手で試すより、失敗しても影響の少ない場面から始めましょう。
1. 言い換えのストックを作る
よく使ってしまう非主張的・攻撃的な言い方を、アサーティブな言い方に置き換えたメモを作っておくと、とっさのときに出てきやすくなります。
| よく出る言い方 | アサーティブな言い換え |
|---|---|
| 「すみません、大丈夫です」(本当は困っている) | 「実は少し困っていて、相談してもいいですか?」 |
| 「なんでいつもそうなの?」 | 「この前もこうなって、私は悲しかった」 |
| 「どっちでもいいよ」(本当は希望がある) | 「私は和食がいいな。あなたは何が食べたい?」 |
| 「普通わかるでしょ」 | 「言葉にしていなかったけど、こうしてもらえると助かる」 |
「すみません」が口癖になっている人は、すみませんが口癖のとき|悪くないのに謝る場面の言い換えも役に立ちます。
2. 低いハードルの場面から試す
お店で注文と違うものが届いたときに「すみません、注文したものと違うので確認してもらえますか」と伝える。家族に「今日は疲れているから、夕飯の片づけをお願いできる?」と頼む。こうした日常の小さな場面が、アサーションの練習の場になります。
3. 本や研修、カウンセリングを活用する
アサーションを解説した入門書は多く出版されており、職場や自治体などでアサーション・トレーニングの研修が開かれていることもあります。一人で練習するのが難しい場合や、言いたいことが言えない背景に過去のつらい経験がある場合は、カウンセラーと一緒に取り組むのも一つの方法です。
アサーションでよくある誤解
アサーションは「言いたいことを全部言うこと」でも「相手を説得する技術」でもなく、言うかどうかも含めて自分で選べる状態を目指す考え方です。よくある誤解を3つ整理しておきます。
- 何でも言わなければいけない:状況を考えて「今は言わない」と自分で決めるのも、アサーティブな選択の一つです。我慢との違いは、自分で納得して選んでいるかどうかにあります。
- アサーティブに伝えれば相手は受け入れてくれる:相手にも断る自由があります。伝えた結果がNoでも、伝えたこと自体に意味があります。
- アサーションは気の強い人向け:むしろ、普段は遠慮しがちな人ほど、型があることで落ち着いて伝えやすくなります。
MIKATA編集部の視点
「言いたいことが言えない」と悩む人ほど、相手の気持ちをよく考えられる、思いやりのある人だと私たちは感じています。言えないのは弱さではなく、相手を傷つけたくない気持ちの表れであることが多いからです。
アサーションは、その思いやりを手放すための方法ではありません。相手を大切にする気持ちの中に、自分のことも入れてあげる方法です。最初からうまく言えなくても、「今日は一つだけ伝えられた」という小さな経験の積み重ねが、自分を大切にする力になっていくと考えています。
アサーションについてよくある質問
Q1. アサーションとは簡単に言うと何ですか?
A. 自分の気持ちや考えを大切にしながら、相手の気持ちや立場も尊重して、率直に伝えるコミュニケーションのことです。我慢して黙るのでも、強く言い負かすのでもない、お互いを大切にする伝え方を指します。
Q2. アサーティブとアグレッシブの違いは何ですか?
A. アグレッシブ(攻撃的)は、自分の主張を通すために相手の気持ちを軽く扱う伝え方です。アサーティブは、自分の主張もはっきり伝えつつ、相手にも考えや選ぶ権利があることを認めます。違いは、相手を尊重しているかどうかにあります。
Q3. DESC法の読み方と意味を教えてください。
A. DESC法は「デスクほう」と読みます。Describe(描写する)、Express・Explain(表現・説明する)、Specify(提案する)、Choose(選択する)の頭文字をとったもので、アサーティブに伝えるための4つのステップを表しています。
Q4. アサーションは看護の現場でも使われますか?
A. 看護や医療、福祉の現場では、患者さんや同僚と率直に意思疎通する方法として、研修や教育で取り上げられることがあります。忙しく緊張感のある職場でも、相手を責めずに必要なことを伝える型として役立ちます。
Q5. アサーションを身につけるにはどうすればいいですか?
A. 日常の小さな場面で、DESC法に沿って伝えたいことを書き出してから話す練習が取り組みやすい方法です。入門書を読む、職場や自治体などの研修に参加する、カウンセラーと一緒に練習するといった方法もあります。
執筆・編集:MIKATA編集部
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、心理学的な診断や治療を行うものではありません。人間関係のつらさが続く場合は、カウンセラーなど専門の相談先にご相談ください。
